最高裁判所第三小法廷 昭和31(オ)515 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人加藤定蔵の上告理由第一点、第二点前段、同成田芳造の上告理由第一
点について。
原審は、当事者間に争のない事実ならびに挙示の証拠により、被上告人とDとの
間に、昭和二七年一二月三日原判示売買契約が成立し、(甲一号証の契約)、被上
告人は売買代金の前渡金として即日金四〇万円、昭和二八年四月一四日金一五万円
をDに交付したこと、右契約の成立にあたり、上告人は、原判示の如き事情から、
Dが売買契約上の債務を履行することができなかつたときは、被上告人から交付を
うけた前渡金を返還し且つこれによつて被上告人に生じた一切の損害を賠償する債
務につき保証をしたこと、Dは右契約上の義務を履行しなかつたので、右売買契約
は同年六月中合意解除されたこと、そこで被上告人はD及び上告人の両名に対し、
合意解除の結果として、前示前渡金五五万円の返還及びDの債務不履行によつて被
上告人に生じた損害の賠償のため、Dは合計金一〇〇万円を支払うべく、上告人は
右金額の支払を担保するよう要望したところ、D及び上告人はいずれもこれを承諾
したこと、ついで、同年九月二一日上告人とD間に前記前渡金返還、損害賠償の債
務額中、損害賠償の額を一五万円に減額した合計金七〇万円につき、準消費貸借を
締結したこと、右準消費貸借は既存の債務を消滅させ新債務を発生させる趣旨を以
てなされたのではなく、既存債務を存続させ、単にその弁済期を猶予し支払方法を
緩和せんとするにすぎないものであつたことをそれぞれ確定したものである。そし
て甲一号証は、その文言と前記証拠を対照すれば、原判示の如き約旨に解されなく
はないから、上告代理人成田芳造の論旨第一点前段は、独自の見解を以て原審のな
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した同号証の内容の解釈を争うものに帰し、同後段は、原審の専権に属する証拠の
取捨選択を争うにすぎず、又上告代理人加藤定蔵の論旨第一点は、原判文の趣旨を
誤解するものであり、同第二点前段は、原審が適法になした事実の認定ないし証拠
の取捨を争うものであつて、いずれもこれを採用し難い。
両代理人のその他の上告理由について。
準消費貸借が成立した場合に、既存債務は消滅して新債務が発生するのか、又は
債務は同一性を維持し単に消費貸借の規定に従うこととなるのかは、先ず当事者の
意思によるべく、当事者の意思が明らかでない場合には、後の場合に属するものと
推定すべきことは、論旨の引用する大審院の判例によつて明らかである。本件にお
いて、上告人の内心の意思は旧債務を消滅せしめるにあつたかのような証拠が散見
するとしても、被上告人の意思も亦左様であつた証拠は存しないのであるから、や
はり当事者の意思が明らかでなかつた場合として後の場合に属するものと推定せざ
るをえないのであつて、原審が上告人の保証債務は更改によつて消滅したとの主張
を排斥したのは正当である。
なお、準消費貸借が旧債務と同一性を維持している場合の旧債務と新債務との関
係について、原審は、 「該債務(前渡金返還、損害賠償の債務)は準消費貸借の
成立後も依然として存続する」とし、あたかも新旧両債務は並存する如く判示して
いる。このような契約をなすことももとより可能ではあるが、通常は、準消費貸借
の成立により、旧債務は爾後債務の同一性を維持しつつ、消費貸借という形をとつ
て存続するにいたるものと解するのが相当であり、本件においても、これと別異に
解すべき資料は存しない。そうとすれば、本件において、被上告人は消費貸借上の
債務の履行を求めるべき筋合であるが、これと前渡金返還等の債務は同一性を有す
るものである以上、前渡金返還等の請求をなすも、結局同一の請求に帰着するとい
うべきである。されば、論旨は、いずれもこれを採用し難い。
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よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 河 村 又 介
裁判官 島 保
裁判官 垂 水 克 己
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